大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成2年(ワ)1119号 判決

甲事件原告・乙事件被告

株式会社大納言

右代表者代表取締役

北條勝彦

右訴訟代理人弁護士

齋藤正実

右訴訟復代理人弁護士

高野栄子

甲事件被告・乙事件原告

三愛建設株式会社

右代表者代表取締役

浅岡岩光

右訴訟代理人弁護士

布留川輝夫

甲事件被告

有限会社多加商

右代表者代表取締役

坂間菊雄

甲事件被告

上打田内英樹

右訴訟代理人弁護士

堀廣士

清水紀代志

甲事件被告

株式会社徳田商会

右代表者代表取締役

徳田藤市

右訴訟代理人弁護士

木島英一

甲事件被告

坪山こと

宋孝三

右訴訟代理人弁護士

野崎研二

主文

一  甲事件原告と、甲事件被告らとの間において、浦和地方裁判所越谷支部越谷簡易裁判所歳入歳出外現金出納官吏裁判所事務官杉山幸男が浦和地方法務局越谷支局に対し、平成元年度金第九九五号をもって供託した浦和地方裁判所越谷支部昭和六三年(ケ)第八三号不動産競売事件における競売代金剰余金金六七六六万二五一一円について、甲事件原告が供託金還付請求権を有することを確認する。

二  乙事件原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、甲事件乙事件を通じ、甲事件被告らに生じた費用は各自の負担とし、甲事件原告(乙事件被告)に生じた費用についてはこれを八分し、その四を甲事件被告(乙事件原告)三愛建設株式会社の、その一を甲事件被告上打田内英樹の、その一を甲事件被告株式会社徳田商会の、その一を甲事件被告宋孝三の、その一を甲事件被告有限会社多加商の各負担とする。

事実及び理由

第一  請求

(甲事件原告)

主文第一項と同旨

(乙事件原告)

乙事件被告(甲事件原告)は、乙事件原告(甲事件被告)に対し、債権者を訴外柴崎商事株式会社、債務者兼所有者を乙事件原告(甲事件被告)とする浦和地方裁判所越谷支部昭和六三年(ケ)第八三号不動産競売事件における競売代金剰余金請求権について、乙事件原告(甲事件被告)が平成元年四月二六日乙事件被告(甲事件原告)に対し代金二億円で譲渡した債権譲渡契約は無効であることを確認する。

第二  事案の概要

(甲事件)

本件は、甲事件原告(乙事件被告。変更前の商号・株式会社大阪北條製餡所。以下「原告」という。)が、甲事件被告三愛建設株式会社(乙事件原告。以下「被告三愛」という。)から、不動産競売代金剰余金交付請求権(その後債権者不確知及び差押の競合を理由に供託され供託金還付請求権に転化)の譲渡を受けたとして、被告三愛及び右債権を差押えた被告三愛の債権者らに対し、右請求権の帰属の確認を請求している事案である。

一  争いのない事実等

1 訴外寺田正平及び訴外寺田卯助(以下「寺田ら」という。)は、昭和六二年一二月九日まで、別紙不動産目録記載の各土地建物(以下「本件不動産」という。)を所有していた。

2 被告三愛は、同日、寺田らより、本件不動産を代金四億三〇〇〇万円で買い受け、同月二一日、中間金三億一〇〇〇万円を支払い所有権移転登記を経由したと主張し(被告三愛に所有権移転登記がされたことは争いがない。)、これに対し、寺田らも本件不動産の所有権を主張して占有を継続し係争が発生した。

昭和六三年一一月一七日ころ、寺田らと被告三愛の間で被告三愛が本件不動産を所有していることを確認する趣旨の和解が成立した。

3 ところで、昭和六三年ころには、被告三愛は経営状態が悪化しており、本件不動産にも相当額の抵当権が設定されている状態であった。

さらに、本件不動産につき、債権者である柴崎商事株式会社の申立により、同年五月二五日不動産競売開始決定がなされ(浦和地方裁判所越谷支部昭和六三年(ケ)第八三号不動産競売事件)、同年末ころには右競売事件の入札期間は平成元年五月二三日から三〇日、開札期日同年六月六日午前一〇時と指定された。

4 被告三愛の取締役浅岡久光(以下「久光」という。)は父親である同社代表取締役の浅岡岩光より本件不動産の売却に関する包括的な代理権を与えられ、任意売却による債務整理を図っていた。

一方、原告は、そのころ、事業拡大のために適当な工場用地を探していたが、取引銀行である住友銀行の草加支店を通じて本件不動産が売りに出ていることを知り、本件不動産は原告の希望する条件を満たしていたので、是非取得したいと考えるに至った。

そこで、原告と久光は、同年三月末ころから交渉を開始し、同年四月二六日、左記内容の本件不動産の売買契約を締結した。

代金 六億一〇〇〇万円(ただし、占有者に対する紛争解決費用九〇〇〇万円を含む。)

特約 買主(原告)は、売主(被告三愛)に対し、契約時に金一億円を保証金として交付し、売主は、同年五月一二日までに、本件不動産の占有者の明渡承諾書及び抵当権者らの抹消承諾書を買主に提出する。右承諾書が提出された場合は、右保証金は代金の一部に充当され、売主は残金五億一〇〇〇万円を支払う。提出されなかった場合は、契約は当然に解除され、買主は右保証金を売主に返還する。

右契約にしたがって、原告は、契約時に寺田らから明渡承諾書及び抵当権者らから抹消承諾書を取るための交渉資金として保証金名目で金一億円を被告三愛に交付し、被告三愛は、同日、右一億円を寺田らとの間で交渉に当たっていた津吹福寿(以下「津吹」という。)及び志岐旨康司法書士(以下「志岐司法書士」という。)の共同名義の口座(武蔵野銀行松原支店)に振り込んで交付した。

5 右不動産売買契約に際して、被告三愛は、原告に対し、いずれも被告三愛の記名捺印のある被告三愛が第三債務者国に対して将来発生する前記不動産競売事件における競売代金剰余金交付請求権(以下「本件債権」という。)を譲渡する旨の平成元年四月二六日付の債権譲渡契約書、及び債務者国に対する平成元年五月一日付の債権譲渡通知書を差し入れ、同通知書により、同年五月一日付で国に対し債権譲渡通知がなされた。

6 その後、原告は、弁論分離前甲事件被告である株式会社泰和(以下「泰和」という。)に対し、平成元年八月一五日本件債権を譲渡し、国に対し、同月一六日到達の書面でその旨通知した。

同年九月一四日、前記不動産競売事件の弁済金交付が実施されたが、本件債権については、国は被供託者を被告三愛、原告及び泰和として、債権者不確知及び差押の競合を理由に、同月一九日、浦和地方法務局越谷支局に対し、平成元年度金第九九五号をもって供託し、本件債権は供託金還付請求権に転化した(以下「本件供託金還付請求権」という。)。

原告は泰和から、同月一八日、本件債権の再譲渡を受け、泰和は、国に対し、同月二一日到達の書面で、また浦和地方法務局越谷支局供託官に対し同月二八日到達の書面で、それぞれその旨通知した。

7 本件債権について、被告三愛の債権者らからの申立により、以下のとおりの各債権差押命令がなされた。

(一) 平成元年六月二一日被告有限会社多加商を申立債権者とする千葉地方裁判所松戸支部平成元年(ル)第一九二号債権差押命令

(二) 平成元年七月一九日被告上打田内英樹を申立債権者とする同裁判所同支部平成元年(ル)第二三七号債権差押命令

(三) 平成元年九月二日被告株式会社徳田商会を申立債権者とする同裁判所同支部平成元年(ル)第二九九号債権差押命令

(四) 平成元年九月七日被告坪山こと宋孝三を申立債権者とする同裁判所同支部平成元年(ル)第三〇四号債権差押命令

二  被告らの主張

1 被告三愛の主張

(一) 本件債権譲渡契約の不存在または無効

本件債権譲渡契約は、本件不動産の売買契約に際して、原告代理人齋藤正実弁護士(以下「齋藤弁護士」という。)の事務員である北川靖博(以下「北川」という。)が、債権譲渡契約書、債権譲渡通知書及び白紙委任状を持参し、久光に対し、突然本件不動産の売買契約に伴う必要書類であるとして捺印を求めたため、久光は何のことか分からぬまま、内容を確認せずに捺印したものである。

したがって、久光のなした本件債権譲渡契約及び債権譲渡通知の意思表示は不存在ないし無効である。

(二) 解除条件の成就

本件債権譲渡契約は、本件不動産の売買契約に付随するものであるところ、被告三愛は、平成元年五月一二日までに寺田らの明渡承諾書及び抵当権者らの抹消承諾書を取れず、本件売買契約は同日解除されため、本件債権譲渡契約も同日解除条件の成就により効力を失った。

(三) 相殺

仮に、本件債権譲渡が認められるとしても、

(1) 被告三愛は、原告(代理人津吹)に対し、同年四月二六日、本件債権を、代金二億円で売り渡した。

津吹が、右当時、代理権を有しないとしても、被告三愛は、津吹の右行為を追認した。

(2) 被告三愛は、原告に対し、同五年九月七日、本件口頭弁論期日において、右二億円の売買代金債権を自働債権、本件供託金還付請求権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をした。

2 被告徳田商会の主張(弁護士法違反)

原告代理人齋藤弁護士は、原告から泰和、泰和から原告への各債権譲渡において、いずれも債務者国に対し通知人代理人として譲渡通知をした者である。また、齋藤弁護士は、原告代理人として、弁論分離前の甲事件被告である泰和に対しても訴えを提起している。これらは弁護士法第二五条第一号の「相手方の協議を受けて賛助し」た場合に該当する。

したがって、齋藤弁護士の行った①原告から泰和への本件訴訟の提起②原告から泰和への債権譲渡③泰和から原告への債権譲渡はいずれも弁護士法第二五条第一号により無効な行為とされる。

三  原告の主張

1(一) 本件債権譲渡契約の不存在または無効について

本件債権譲渡契約は、被告三愛の代理人久光が自らの意思に基づき締結したものであって、有効なものである。

(二) 解除条件の成就について

本件債権譲渡契約は、本件売買契約に付随するものではなく、本件売買契約の消滅を停止条件とするものであって、本件売買契約が解除条件の成就により消滅したことにともなって効力を失うものではない。

(三) 相殺について

本件債権譲渡契約は、本件不動産を是非取得しようと考えた原告が、仮に本件不動産の競売が進行したとしても、競落の方法により確実に取得するため、高額で入札が可能なように事前に剰余金交付請求権の譲渡を受けておくという趣旨で締結されたものである。

したがって、対価の合意はもとより存在するはずがなく、本件債権譲渡につき作成された公正証書には譲渡代金として二億円の記載はされているが、右記載は公証人小川源一郎による「対価の記載をしたほうがよい、その金額はいくらでもいい」等のアドバイスにしたがってなされたものに過ぎない。

2 弁護士法違反について

齋藤弁護士が、原告及び泰和を代理して、それぞれ債権譲渡通知をしたことは事実であるが、右通知は当事者間で予め締結された債権譲渡契約にしたがって行った事実行為に過ぎず、実質的な利益相反関係はなく、無効ではない。また、仮に右行為が弁護士法違反であったとしても、無効を主張しうるのは当事者たる泰和及び原告のみであって、被告徳田商会は無効を主張しえない。また、債権譲渡通知は無効になったとしても、債権譲渡契約それ自体が無効になるものではない。

四  争点

1 被告三愛の本件債権譲渡の意思表示は有効に存在するか。

2 本件債権譲渡契約は、本件不動産売買契約の解除条件成就にともなって失効したか。

3 被告三愛のなした相殺は有効であるか。

4 弁護士法第二五条第一号違反により、齋藤弁護士のなした各債権譲渡及び本件訴えの提起はいずれも無効であるか。

(乙事件)

一  本件は、乙事件原告(被告三愛)が、乙事件被告(原告)に対し、不動産競売代金剰余金交付請求権(甲事件において確認の対象となっている債権と同一の債権)を譲渡する旨の契約の無効確認を求めている事案である。

二  争点

甲事件の争点1と同旨

第三  当裁判所の争点に対する判断

一  甲事件争点1、2について

1  久光が債権譲渡契約書(〈書証番号略〉)に捺印したことについては当事者間に争いがない。

証人浅岡久光は、本件債権を原告に譲渡したことはなく、右債権譲渡契約書は、本件不動産の売買ないしは寺田らの立ち退きに関する書類であると思い、津吹らに言われるままに内容を確認せずに捺印したものであって、本件債権を譲渡をする意思はなかった旨供述する。

2  しかしながら、〈証拠略〉並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、取引先銀行である住友銀行の草加支店を通じて事業拡大のため工場用地に適当な土地を探していたが、志岐司法書士、津吹らにより本件不動産を紹介された。本件不動産は、毎日五〇トンの排水に耐えられる川に接していること、五年後くらいに下水道の設置計画があること、高速道路に近いこと等、希望する条件を全て満たしているので、原告は是非本件不動産を取得したいと考えるに至った。

しかし、本件不動産は所有者の被告三愛と占有者の寺田らとの係争が未解決で、また相当額の抵当権が設定されて既に競売開始決定がなされているという状況であり、被告三愛が、寺田らとの紛争を任意に解決し、かつ設定されている各抵当権を抹消し、原告に完全な所有権を移転できるかは不明であったため、原告は、仮に本件不動産の競売が実行された場合には、競落の方法により入手しようと決意した。

(二) 津吹は、右のような原告の意向を受けて、志岐司法書士と相談の上、原告が確実に本件不動産を取得できるような方法を案出した。すなわち、原告が将来発生する可能性のある本件債権を事前に被告三愛から譲渡を受けていれば、仮に、原告が高額な価格で入札して競売代金剰余金が出たとしても、右剰余金は原告が取得できるのであるから、安心して高額で入札できると考え、原告に対し被告から予め本件債権の債権譲渡を受ける方法を提案し、原告もその方法を了承した。

被告三愛は、原告との任意売買を成立させて抵当権を抹消しなければ本件不動産の競売手続が進行してしまうため、最低入札価格が約二億九一四七万円の競売よりも紛争解決費用も含めて六億一〇〇〇万円という有利な価格で売却できる任意売買を成立させるためには、多少不利であろうと津吹の右提案に従わざるを得ない状況であり、本件債権を原告に対し無償で債権譲渡することを承諾した。

(三) そして、右合意に基づき、本件不動産売買契約と同時に、久光が、北川が事前に作成した債権譲渡契約書(〈書証番号略〉)に、被告三愛の代表印を押印した。その後、同年五月一日ころ、齋藤弁護士の事務所において、北川が右債権譲渡の債権譲渡通知書(〈書証番号略〉)を作成して、久光が被告三愛の代表印を押印した上で、被告三愛の事務所の近くにある葛飾新宿郵便局から内容証明郵便で債務者である国に通知した。

さらに、同年六月ころ、本件債権譲渡契約に関する公正証書作成のために、北川が委任状(〈書証番号略〉)を作成し、その後久光が代表印を押印し、同年六月二八日、津吹、志岐及び北川が立ち会って本件債権譲渡契約の公正証書(〈書証番号略〉)を作成した。その際、公証人から、債権譲渡の対価の記載がないのは不自然であるという指摘を受け、津吹、志岐らが、代金二億円と便宜的に記載することにした。

3  以上によれば、証人浅岡久光の前記証言は信用できず、本件債権譲渡契約は有効に成立したと認めるのが相当である。

4  また前記認定のとおり、本件債権譲渡契約は、任意売買により原告に本件不動産の所有権が移転できなかった場合には、原告が本件不動産を取得できるようにする目的でされたものであると認めることができる。

すなわち、任意売買が成立し、本件不動産に設定された抵当権が抹消された場合には、本件不動産の競売手続は取り下げられるから本件債権譲渡契約の目的となる競売代金剰余金還付請求権は発生せず、本件債権譲渡契約の意味はなくなるが、逆に、抵当権を前記平成元年五月一三日までに抹消できず、本件売買契約が解除条件成就により消滅した場合には、原告は競売で本件不動産を取得することになるので、本件債権を譲り受けることによって、原告が他の入札者よりも高値で入札することが可能になり、本件債権譲渡契約が意味を有するようになるのである。

右のような諸事情に鑑みて判断すれば、本件債権譲渡契約は、本件売買契約の従たる契約であってこれに付随して効力を失うものではなく、むしろ、本件売買契約の解除条件成就による消滅を停止条件として効力を生じる契約と評価するべきである。

したがって、本件売買契約の解除条件成就によって本件債権譲渡契約が効力を失った旨の主張は採用できない。

二  甲事件争点3について

1  被告三愛が、原告に対し、平成五年九月七日、本件口頭弁論期日において、本件債権譲渡の代金債権を自働債権、本件供託金還付請求権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著な事実である。

2  〈書証番号略〉(債権譲渡公正証書)中には、本件債権を金二億円で譲渡する旨の記載が見られ、泰和を本件不動産の買受人とする旨の売却許可決定がされた後、右公正証書が作成されているが(弁論の全趣旨)、〈証拠略〉によると、本件債権の譲渡の対価について話し合った事実を認めることはできず、前記認定のとおり、右二億円は、公証人小川源一郎の助言により売買の形を整えるために書き加えられたものと認められ、本件全証拠によるも、原告が被告三愛に対し本件債権譲渡の対価として金二億円を支払う合意が存在したことを認めることはできない。

3  また、そもそも被告三愛が自働債権と主張する右二億円の請求権は、被告三愛を債権者、原告を債務者とするものであるが、受働債権たる本件債権は原告を債権者、国を債務者とするものであって、両債権は相殺適状にないのであるから、相殺の主張は主張自体失当であると言わざるを得ない。

4  したがって、いずれにせよ、被告三愛の相殺の主張は理由がない。

三  甲事件争点4について

1  齋藤弁護士が、原告から泰和、泰和から原告への各債権譲渡において、いずれも債務者国に対し通知人代理人として譲渡通知をなしていることは当事者間に争いがなく、また、同弁護士が原告の訴訟代理人として弁論分離前の被告泰和に対し訴えを提起したことは当裁判所に顕著な事実である。

2  ところで、弁護士法第二五条第一号の立法趣旨は当事者の利益を保護することにあるから、同号に違反するかどうかの判断は、当事者間に実質的な利益相反関係が有るかどうかによるべきである。

しかるに、債権譲渡契約を前提とした債務者に対する債権譲渡通知自体は、譲受人が譲渡人の代理人として通知をすることも許されていることからもわかるように、譲受人と譲渡人の間に新たな利害関係を発生させ、実質的利益相反を生じるものではない。したがって、齋藤弁護士が泰和の代理人として債務者国に対して債権譲渡通知をしたからといって、ただちに同弁護士の行為を弁護士法第二五条第一号違反ということはできない。

また、右と同様の理由で、齋藤弁護士が本件訴えを提起したからといって、同法違反ということもできない。

3  また、仮に同弁護士がなした債権譲渡、甲事件の訴えの提起の各行為が弁護士法第二五条第一号違反に該当するとしても、同号の立法趣旨は主に当事者の利益保護にあるということに照らせば、同違反の訴訟行為の効力は、絶対的無効ということはできず、相手方たる当事者が違反を知りまたは知りうべきであったにもかかわらず異議を述べず訴訟行為を進行させた場合には、当該訴訟行為は完全に効力を生じ、弁護士法違反を理由にその無効を主張することは許されないと解されているところ(最判昭和三八年一〇月三〇日民集一七巻九号一二六六頁参照)、本件全記録によっても相手方当事者である泰和が何らかの異議を述べた事実は認められない。

4  したがって、齋藤弁護士の前記各訴訟行為が弁護士法第二五条一号により無効であるということは相当ではない。

四  乙事件の争点について

前記説示のとおり、原告と被告三愛の間で平成元年四月二六日、本件債権譲渡契約が締結され、同契約は有効に存在していることが認められる。

第四  結論

以上によれば、甲事件における原告の請求はいずれも理由があり、乙事件における被告の請求は理由がない。

(裁判官中村心 裁判長裁判官滿田忠彦及び裁判官加藤美枝子は転補のため署名押印できない。裁判官中村心)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例